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精神科医が見た投資心理学

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 著者のブレット・スティンバーガー氏は現役の精神科医で、トレーダーでもある。彼のクライアントは主に医学生や研修中の病院関係者が対象で、普段はハードなスケジュールをこなしているが、何かの問題が起きて困っている人のための「短期セラピー」が専門である。

 本書の中で最も強く印象に残ったのは以下の2カ所だが、500ページ全体としても得るものが多く、「負けるのは本当はそうしたいのだ」というような、精神分析にありがちな〈解釈〉ではない、状況の捉え方、解決策などが書かれていて、投資+心理の本の中では一番好きかもしれない。

(各章のタイトルは書籍のものではなく、ざっくりした説明として私が勝手につけたものです)

p351
ピンボールビデオゲームで遊ぶとき、設計者がゲームはこうして遊ばせようと意図した方法では決まって損失が出る

p460
1つか2つの検証済みの市場パターンに集中し、単純にこれらに投資すること

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第1章 「問題」ではなく「解決策」に集中すること

 著者は投資を始めたころ、きちんとしたデータ、頼りになるソフトウェアを準備し、本を読みセミナーに足を運び、熱心に勉強した。そしてもちろん失敗した。

トレード記録から自分の失敗を分析した結果、以下のすべてにおいて「一貫性がなかった」と述べている。

・投資規模(ロット)
・準備
・投資の実行(時間軸)
・観点(ティックに集中して大きなトレンドに注意を払っていなかった)
・市場離脱(手仕舞いのルールにシナリオがなかった)

逆に、上手くいったトレード(細かい上下に振り回されず、落ち着いて戦略通りに行動できた)は、建玉が小さいときだった。規律を守れない原因を見つけるには、上手くいったトレードのパターンを探すと良い

p24
これまで自分が上手に投資をした場面を確認し、それを将来の行動モデルにすれば、優れた投資家になれる。

第2章 失敗は敗北ではない

 損切りは失敗のように見えても、損失が膨らむポジションを放置したままチップが全てなくなれば敗北する。目の前の事象を捉え直すことで、逃げていた決断を実行できるようになったケース。

 また、マイナスの感情から切り替えるための方法がいくつか紹介されていた。2つ目の「一定の手順」のところは、条件反射制御法と似ている感じがした。

・飼っている犬の感触を思い出すこと
・野球選手がバッターボックスに入るときの手順のようなもの。儀式。
・瞑想、マインドフルネス
・バイオフィードバック
・音楽(Powaqqatsiのサントラ/フィリップ・グラス

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第3章 感情を情報として利用する

p204
暗黙のうちに知っていることを発見し、それをはっきりしたルールに翻訳することで、自分だけの成功への個人的な雛形を形成できるのである。

 ポジションを取ったあとリラックスできず、身体がこわばり、前屈みになり、手に汗を握っているならば、もしかするとそのポジションは間違っているのかもしれない。自分でも気がついていない「何か」を、  脳が無意識が見つけている可能性があるからだ。

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p75
成功する選手は、試合の記録係にはなれない。自らの利益を計算したり、トラック・レコード(記録)に集中するようになると、もう市場を注視しなくなる。

p85
いったん自分の感情的、認識的、肉体的な状態に気づけば、精神科医の教えに従い「何はともあれ、損失の出そうな行動はしない」ことが最初の目標になる。
退屈、感情の下降、挫折感、昂揚、過度の楽観主義や恐怖の状態では投資しないこと。

 トレード中の感情が問題なのではなく、感情に没頭してしまうことが問題になってくる(マーケットに没頭しなくてはいけない)

不安をコントロールする方法のひとつとして、EMDRに由来するやり方が紹介されていた。

p452
自分の左膝を一回、右膝を二回繰り返し交代で叩くという感情的でない行為で、このパターンの退屈感はストップ値に入るような感情的な状況と組み合わせて、感情的な反応を打ち消し、市場の動きを中立的に処理できる。

第4章 何が欲しいのか

 ダイエットに失敗する原因は、健康になろうと決意した人格と、甘いものを食べようとする人格は「別人」であり、それぞれの願望を理解しなければいけないという話。

p121
あなたの中に、ある者は慎重に、ある者は衝動的に、ある者は利益を出し、ある者は損失を出す複数の投資家がいるとしたら、あなたの最初の仕事は、これら数人の投資家にレッテルを貼ることではなく、オブザーバーの立場をとることである。この騒々しい投資家たちが投資する理由を理解する必要がある!

変な話だが、失敗した投資でも、たとえば市場から利益を得るのではなく、市場に興奮を求めるという見方からは、立派に成功しているともいえるのだ。

 例えば上記の場合であれば、エキサイティングな体験を投資以外の場面で行えば、投資では興奮を求めなくなる。何かをただ「やめさせる」ことは難しいが、別の願望にシフトさせることはできる。

p123
本を書いている間、かえって自分の投資がうまく行っていたことに驚きはしない。(中略)達成感の願望は、本を書くことで十分に満たされているから、投資は忍耐強く待つことができる。

 また、過去の成功体験もトレードの役に立つ。例えばゴルフなどで、失敗したプレイを忘れて「今」に集中したことがある人は、投資でも同じようなモードを解決策として使えるはずだ。

第5章 反復すること

パターンをくり返すことは、 オペラント条件付け(正の強化、負の強化) が行われている状態である。

ストップを守れない、ロットを入れすぎる、利食いが早すぎる、などの悪いパターンも「良いパターン」を繰り返すことで上書きすることができる。

p135
どんなに問題を語り、自問自答しても、そんな方法では、めったに人は変化するものではない。人が変化するのは、古いパターンに挑戦し、新しいパターンを定着させる強い感情的な経験によることが多い。

p229
自分が恐れることを見つけること。そして、その恐れを直接経験できる状況、統制された状況に自分をおくこと。

 古いパターンを踏襲しようとしているその場面で、意識的に「新しいパターン」を実行し、それを何度も繰り返して定着させること。

犬に芸を覚えさせるように何度も反復して、ようやく自分の一部にすることができる。

p242
何をするにしても、動機づけが必要だとしたら、それはまだ本当に自分の一部にはなっていない。変化が永続するには、毎朝の歯磨きや会話しながら車を運転するように、自動化することである。

第6章 大きな変化を使う

・片目を閉じた場合、左脳と右脳を個別に使うことになるので違った視点見ることができる。
・デスクから離れて運動してみる。姿勢を変える
・大きな声を出す。スポーツ選手も気持ちを切り替えるためにこのような手法を使う

p402
どんな理想でも達成しようと思ったら、その理想に向けて、自分の行動を飛躍的に変えることだ。そして、その結果を内面化するには、その状態で時間を充分に過ごすことだ。

 また、極端な変化を取り入れることも、自信をつけるための良い方法らしい。ポジションを取りすぎる場合に取引を1日1回に絞ったり、普段のロットを拡大する場合に、少しずつではなく一気に増やす。

逆に、たとえばアナリストの言葉を鵜呑みにしてポジションを取ることは投資に不可欠な自信を失わせ、自ら「決断できない人間」であることを認めていることになる。

第7章 相場にボコボコにされる

 アルコール依存症の患者が本気で断酒しようと思うのは、当人が本当に「もうたくさんだ」と実感したときで、一般的に〈底つき体験〉と呼ばれる。

投資家も、現在の失敗から新しいパターンを「ほんとうに」獲得したいと思って努力するためには、一度は退場寸前まで追い込まれる必要がありそうだ。

p407
投資家が古い手法をすっかり拒絶して、新たな境地に飛躍するのは何によるのか? おもしろいことに、答えは怒りである。

おわりに

p424
変化を加速させる鍵は努力である。
心地よい状態で変化が達成されてことはかつて一度もない。

努力について、こちらの動画で印象的な部分があった。
「くたくたに疲れているときに、さらにパズルを解くような訓練をする。身体と同じように脳も鍛えることができる」