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「動物感覚」 テンプル・グランディン

元の記事

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 著者のテンプル・グランディン自閉症の動物学者(あとがきでは、アスペルガー症候群と注釈されていた)

彼女の書く文章は端的で、翻訳書によくある「ちょっと気の利いた言い回し」のような表現がほとんどなく、事実を淡々と述べるスタイルの文章です。

第2章 動物はこんなふうに世界を知覚する

p47
動物も自閉症をもつ人も、ものについて自分たちがもっている概念には目を向けない。実際にあるもの自体を見る。自閉症の人は世の中を構成しているこまかい点を見るが、ふつうの人はそういったこまかい点をすべてぼやけさせて、世間の一般的な概念にまとめる。

動物は物事をあまり一般化しない

「飼い主の男性」に慣れても、「男性一般」に慣れるわけではない。これを利用して、人を乗せたがらない馬であっても、馬具の種類を変えたら「その馬具と一緒に覚えた怖いイメージ」を忘れて、人慣れした馬になることがある(p292)

第3章 動物の気持ち

踊らないオンドリ

 品種改良により作られた「成長が早い」「胸肉が大きい」ニワトリは、体重を支えることができず、足にケガをするようになってしまった。そこでさらに「頑丈で健康」になるよう品種改良を続けたところ、オスが正常な求愛行動をしなくなった。

p97
 ダンスはメンドリの脳内で固定的動作パターンを誘発し、メンドリはうずくまって交尾を受け入れる姿勢をとり、オンドリはメンドリに覆いかぶさることができる。メンドリはダンスを見なければ、うずくまらない。
 
ところが、オンドリの半数がダンスをしなくなっていた。ということは、メンドリはオンドリのためにうずくまらない。そこで、オンドリは強姦におよぶ。メンドリに飛びかかり、力ずくで交尾しようとし、メンドリが逃げようとすると蹴爪や足で攻め、切り裂いて殺すのだ。

脳の配線

 白い動物、とくにアルビノは神経にかかわる問題をたくさん抱えている。目の青い動物も同様である。

p108
片方の目が茶色で、もう一方が青のまだら馬に会ったことがあるが、馬はあきらかに馬のトゥーレット症候群にかかっていた。六十秒おきに全身がこわばり、発作を抑えることができない。

p115
動物をもらうときには、目が青くて鼻がピンク色で、体の大部分が白い毛で覆われているといったアルビノの特徴が多すぎないことを、かならずたしかめたほうがいい。

 動物や自閉症の人々には、投影、置きかえ、抑圧、否認など、恐れているものを無意識に押しこめるといった「防御機構」がないのではないかと著者は言う。

p126
私の脳にはどうして無意識がないのかわからないが、言葉ではなく絵が「母語」であることに関係していると思う。言語をつかさどる脳の部分は、画像の記憶をさえぎることが、多数の研究であきらかになっている。

繁殖

 牛と羊の繁殖はそれほど難しくないが、豚は難易度が高い。

基本的には人工授精を行うが、きちんと観察して世話してやらなければ、一腹あたりで受精する数が減る。

また、予防接種や医療手当などのスタッフは繁殖に関わってはいけない。
豚が怖がる(=ストレス)により、生まれてくる子豚の数が減り、その子豚も体重の増加が順調ではない。

動物の習性

・馬を一日中、ひとりぼっちで馬房に閉じ込めているのは虐待である

p142
馬は群れをつくる社会性のある動物で、仲間といっしょにいる必要がある。強力な防護措置をほどこした牢獄に牡馬を閉じこめていると、性行動をゆがめる。

p409
馬房で一頭だけで育てられたオスの子馬が、ほかの馬に対して凶暴になる。これは、ほかの馬とのつきあい方を学ぶ機会に恵まれなかったからだ。そういう馬は、支配者の地位についたら、もう戦いつづけなくてもいいことがわかっていない。

・猫とレーザーポインタについて

p188
猫は、点が見えていても、つかまえることができない。たとえ点を前足で押さえても、点を感じることも、つかまえることもできない。猫は追いかけてつかまえるという連鎖行動を完了できないため、レーザー光線の点が「過剰刺激」になって、いつまでも追跡本能を刺激しつづけ、追跡の本能が遮断されないのだ。

・けんかごっこは勝ち方を学習するためのものではなく、勝ち方と負け方を両方学習する方法ではないかという考察。

p165
青年期を迎えた動物は、けんかごっこをしている幼い動物よりも体が大きく強く支配的になると、何回かに一度は、あお向けになってわざと負ける。これは「自己ハンディキャッピング」と呼ばれ、どの動物でもしている。そうしないと体の小さい友達はたぶん遊んでくれなくなる。

犬が言うことをきかなくなるから、「綱引きごっこ」で人間がいつも勝たなくてはいけないというのはウソらしい。毎回負けさせられた犬は、そのうち綱引き自体で遊ばなくなる。

動物の攻撃性

p185
捕食のための殺しは、探索回路と「基本的に脳の同じ領域」で生じていることがESBの研究であきらかになっている。

縄張り争いなどの喧嘩では、怒りの回路が誘発されることがあるが、捕食のための殺しには怒りがない。どちらかというと楽しんでおり、欲しいものを探すときの快感は、狩りの快感と同じだ。

それとは逆に、怒りによる攻撃は不快感を覚えるため、動物と人間は怒りが誘発されることが好きではない。なるべくなら避けようとする。

第6章 動物はこんなふうに考える

言葉がじゃまをする

言葉は視覚的な記憶を抑圧することがあきらかになっている。

p350
人間についてひとつわかっているのは、意識的な言語をつかさどる左脳が、状況を説明する話をつねにつくりあげているということだ。

ふつうの人の左脳の中には「通訳」がいて、なにかをしているときや思い出しているときはいつも、それについてこまかな情報をかたっぱしから取り入れて、すべてをすじの通るひとつの話にまとめあげる。つじつまの合わない情報があるときには、たいていの場合、削除するか書きかえる。

精肉工場の監査

ふつうの人(=自閉症ではない人)が作るチェック項目は細かい。
たとえば、牛の歩行に影響を及ぼす事柄だけでも
 ・足の病気
 ・粗末な床
 ・飼料に含まれる穀物の過剰
 ・蹄の手入れ不足 …etc

などがあり、それらを全部チェックしようとするのが一般的だ(p351)
しかし、著者が監査を務めている工場では「足を引きずっている牛の数」だけを調べる。
足の悪い牛が多い=不合格になった工場だけ、原因を探して改善すれば良い。

ニワトリ工場で「3時間の消灯」を義務付けても、本当に守られているかどうかはわからない。ヒヨコの体重が軽すぎれば、十分眠れていない可能性がある(もちろん別の可能性もある)ということで、いくつかのNG項目をまとめてチェックするために、ヒヨコの体重を計る。

このような簡易化により、チェック項目を100→10に減らして、しかも非常に効果があったという。

文章についても「電動式突き棒の使用が最小限であること」だと、スタッフごとに捉え方が変わってしまうため、チェック項目には数字を用いる(「全体の25%未満」など)

さまざまなエピソード

学生のころ、B・スキナー博士を訪問したときのエピソード

p22
それから、博士は私の脚にさわろうとした。私はショックだった。着ていた服は挑発的でもなく、地味だったし、まさかそんなことをされるなんて、夢にも思わなかった。それで、こういった。「ご覧になってもかまいませんけど、さわらないでください」

・ゾウは何キロも離れたところにいる仲間と連絡できる
吼えているのだが、あまりにも低音のため人間には聞くことができない。足を踏み鳴らして、地面を振動させているという説もある(p85)

・聴覚が鋭いため、スイッチの入っていないラジオを聴くことができる人がいる(p89)

ホルスタイン種の牛は、大量の乳を出すように品種改良された結果、恐怖心がなくなってしまった。何があっても動じないため、コヨーテに襲われても子牛を守らない(p304)


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