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「心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋」

元の記事

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本の題名には「うつ病」とありますが、メンタルヘルスに限らず、社会学サブカルチャーを含む幅広い内容の本でした。
特集記事→ https://kangaeruhito.jp/interviewcat/saitoyonaha

心を病んだらいけないの?: うつ病社会の処方箋 (新潮選書) amzn.asia
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精神療法

▶️ 特性の区分のところが面白かった
 ADHD:反則だと知っていても、ついカードの裏を見ちゃう
 ASD:ゲーム上で意味がないことをやってしまう

p138
ぼくがいちばん理解できたASDADHDの区分は、彼(=松本太一さん)が講演で述べていたことで、
ADHDの症状だとゲーム中に「つい(反則だとは知ってはいても)カードの裏を見ちゃう」のに対して、ASDだと「反則ではないが、ゲーム上で意味がないことをやっちゃう」のだそうです。たとえばお金を投資して「製品を作る」ことが目的のゲームなのに、いつまでもお金を貯め続けて一人で満足しているといった事例ですね。

▶️ 薬や電気ショックでは「洗脳」できない

p175
かつてのソ連で精神医学が権力を結びつき、共産主義になびかない人に「怠慢分裂病」という診断名をつけて強制入院させたことがあります。でもそうした非人道的な行為の結果わかったのは、どんなに薬や電気ショック治療を乱用しても、「思想までは変えられない」ことだったんです。脳に物理的な刺激で直接働きかけて、体制に都合の良い人間を作ることはできなかった。人を洗脳するには、いまだに「人力」じゃないと無理なんですよね。

▶️ 「症状を出し切る」のは、中医学好転反応のような感じ?
木村敏さんの説明が引用されている

p218
うつが「いい加減休めよ」という身体のシグナルだとすると、最初はちょこちょこと不調が出て、休まないでいるともっとひどくなりますよね。抗うつ薬はそうした不満を「一気に出し切らせる」ことで治す薬なのだから、飲むと「一時的に症状が重くなる分、早く治る」んだと、そういう風に医者は説明すべきではと提案されています。

▶️ セラピーのゴールは主体性を回復すること

p249
そもそもOD(=オープンダイアローグ)は「主体性の回復」を重視しています。精神分析で見られる転移性治療のような、「主治医に依存しているため、依存できている間だけは元気」という状態ではなく、治療チームとの接触がなくなった後も効果が続くのが特徴です。

p50
カルトないしオカルトを信じたら「改善しました」という患者さんを認められるかというと、これはそう単純にはいかない。どこで線を引くかと言えば、その治療によって「主体性が回復したり、自由度が増したりする結果」が得られるかどうかです。
最終的に治療者に依存しなくなって自立できたら「結果オーライ」ですが、特定の教団のメンバーにされてしまってそこから出てこれなくなるような治療法は、認めてはいけません。

p75
先ほど売春のたとえを出しましたが、じつはこれも中井久夫さんが「濃密な人間関係を顧客と保つことを生業とする職業は二つあって、売春婦と精神科医だ」と言われたことから連想したものです。そして重要なのは、フロイトもそうしたように、だからこそ治療関係においては「お金を払わせること」がむしろ必要になるんです。

承認欲求とお金

承認を、お金を出して買うことについて
>精神科の治療もある意味では承認ビジネスですが、一部の悪徳な医者を除けば、それはあくまで「回復して、いつか不要になる」ことを前提に行われています。

▶️ 社会人大学院が承認ビジネスになっている
▶️ 以下、オンラインサロンについての話題

p75
お金で得られる承認を必要としている人はいるのだから、それを否定はできない。他面で、承認に「お金を出そう」と思う時点で、その人はかなり追い詰められた状態じゃないかという懸念がある。

p90
ヘーゲルが言ったように承認とはすなわち相互承認なので、突き詰めると最後は「主人と奴隷」の葛藤になるんです。主人は奴隷を支配しているつもりが、いつの間にか奴隷の存在に依存するようになっていく。

p100
生きている意味を摂取する場としての友達・家族・ネットコミュニティが浮上してきたわけですが、最後の一つだけが近日妙に「有料化」してきた。そのことに対する反発も、オンラインサロンへのバッシングにはあるのでしょうね。

▶️ ヤンキー文化の承認ルール。気合い、感謝、絆が良しとされ、先輩などを立てる一方、「下剋上上等」みたいな成り上がりも賛美される。

p45(半グレやカルト宗教の勧誘に関して)
最初は条件なしで承認したかのように装っておいて、あとから条件つきだよと。「あれだけ面倒みてやったんだから、俺に恩を返せよ」と言って手下にしていくのは怖いなと思います。

オンラインサロンに限らず、習い事やサークル活動も参加費+時間コストを支払うので、たぶん主催者が(商売のために)メンバーを依存させる方向に傾きすぎることが問題なのだと思う。
コミュニティのメンバーであることが人間に与える意味については、こちらの本を思い出した。🐰💬

その他

▶️ 映画「天気の子」が支持される理由

p72
あれは「生まれ落ちただけの“本当の家族”よりも、自分たちで築いた擬似家族のほうが魅力的だ」という価値観を描いていて、それが若者に支持されているのだと思います。作中で描かれる、零細な編集プロダクションでの住み込み労働もそうですね。

▶️ 大人になれないのは「あきらめることができない」から

p110
子どもには成長していく過程で「自分はこういう存在で、それ以上にはなれないらしいな」として、自然にあきらめを獲得していく側面があるんです。ところが戦後民主主義の教育は「君たちは何にでもなれる! だから夢を捨てるな」と強調し、そうしたあきらめを禁圧する性格があった。いわば、教育システムが「去勢」を否認してきたわけです。

▶️ 身体の有限性
スマートウォッチ、筋トレブーム、ダイエットなど、身体をコントロール(操作)することが流行している。
関川夏央さんによる三島由紀夫のエピソード↓

p126
ジムに通い出した際に三島はコーチから「自殺をしない」と約束させられたそうです。三十代のうちはやればやるほど筋肉がつくけど、四十代になると必ず衰えることに耐えられないビルダーが多いからと。これこそがスポーツ指導者の慧眼で、実際に三島もまた四十五歳で割腹自殺を遂げました。

▶️ 「標準的とされる振る舞いができる人間である」という条件に合致した場合のみ、相互扶助のセーフティーネットに入れる。山本七平日本教(=人間教)

第7章で出てきたジョーカーについての記事

『ジョーカー』の秀逸さとトランプ大統領の共通点。 私たちは一体何に「笑って」いるのか? もしも、面白い映画を楽しむ気持ちと、世界を滅茶苦茶にしているものとが、同じものだったら…。 www.huffingtonpost.jp  

言及されている本

その他本文で言及されていたもの(一部)
各ページに解説あり、巻末索引はとくに無し

スラップスティックプレイヤーピアノ カート・ヴォネガット p74, p266
ゼロ年代の想像力 宇野常寛 p116
未完のファシズム 片山杜秀 p124
太陽と鉄 三島由紀夫 p126

隠喩としての病 スーザン・ソンタグ p132
ソーシャルマジョリティー研究 共著 p141
家族の深遠治療文化論 中井久夫 p153, p83

隷属なき道 ルドガー・ブレグマン?ハイエク? p161
デジタルネイチャー 落合陽一  p166

マクドナルド化する社会 ジョージ・リッツァ p174
一般意志2.0 東浩紀 p176
生命と現実 木村敏 p219
東大を出たあの子は幸せになったのか 樋田敦子 p226

webでも、おすすめの10冊が掲載されています。

「対話」によって人間関係と自分自身を変えるための10冊 | たいせつな本 ―とっておきの10冊― | 斎藤環 | 連載 | 考える人 | 新潮社 各界で活躍する方々に、それぞれのテーマに沿って紹介していただく特別な本。新しい本、古い本、日本の本、外国の本、小説も絵本も kangaeruhito.jp

↑このページの中で、神田橋氏の発言の箇所が面白かった。(OD=オープンダイアローグ)


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